昔々、複合機や事務機器等、ビジネス機器を主要な事業にしている、新しい会社に移ったばかりのことです。右も左も分からないときに、上司の計らいで、新しい家電のデザインコンセプトを決める会議に参加させてもらいました。
転職してきて初めての大きな会議。しかも上場企業のZ社。どんなすごいプレゼンなのか、どんな議論が起こるのか、内心ワクワクしていました。
ベテランであるSさんがデザイン主担当です。Sさんは企画や戦略、設計の幹部がずらっと並んでる前で、淀みなくプレゼンをしていました。Sさんの提案したデザインコンセプトは「コンパクト」。具体的な方法の概要を伝え、決定権を持つ部長も承認を与えました。
めでたくデザインコンセプトは承認され、会議は終わりました。
この会社に憧れもあって転職してきた私は、少し残念な思いで会議を後にしました。
Sさんがコンセプトにした「コンパクト」は、そもそも企画部門が出した、新商品の条件でした。基本はエンジニアが頑張って、機械的な構造や基盤サイズ、仕組みで小型化を実現し、企画部の要望に応えたものです。
Sさんはそこに乗っかり、デザインコンセプトも同じにしました。最終的にボディの角を大きく削り、C面を活かした外観デザインでコンパクト化に貢献しました。
企画条件には合ってるので商品としては問題はないです。残念に思ったのは、デザインのプロとして、企画が提示した目標をさらに推し進める「何か」=「コンセプト」が十分提示されないと思ったからです。
「コンセプト」とは何でしょう。
コンセプトとは、そのデザインや商品が「何者かを示す言葉」です。この意味では、Sさんが提示した「コンパクト」は役目を果たしています。足りないのは「他よりももっとよい何か」、「ほかに負けないひと押し」、「今までとは違うお役立ち」を、デザイン 商品力を上げることです。
例えば、オフィスに入る複合機等の事務機器であれば、「コンパクト+操作ステップ省略による時間圧縮デザイン」のようなコンセプトにすると良いです。
スペース効率を上げるためにコンパクトにしつつ、お客様の操作時間を減らして生産性を上げることがデザイン提案できれば価値があります。具体的には操作導線をリニューアル、ボタンの削減、操作パネルの大画面化、可動部の開けやすさ、UIの改善等が提案できると思います。
今思えば、Sさんのデザインコンセプトは本質的に正しかったと思います。
そもそも新商品はビジネス向け機器です。新しく革新的な商品よりも、壊れない信頼性や頑丈さ、オフィス空間を圧迫しないスペース性、少ないステップ数で操作できるシンプルさ、トラブルがあっても復旧しやすい構造といった、お客様の仕事を止めない品質の優先度が高いです。
いつも新しいコンセプトの商品を出そうとすると様々な場面に影響が出てきます。
より速く仕事ができるからという理由で操作の作法を変えてしまうと、昔からのお客様を迷わせてしまいます。新しいブランド統一という名目で形状や色を変えると、オフィスに不ぞろいな形や大きさ、色が増えてしまい、働く環境の品位が下がってしまいます。
過去からの操作感や使いやすさを踏襲し、少しづつ改善していくこともコンセプトになりえます。ただ、「コンパクト」とひとことで言いきるのは非常にもったいないことでした。
コンセプトは商品そのものでもありますので、「何者かを示す言葉」=「コンセプト」を決めることははなかなか難しいです。
ただ、「他よりももっとよい何か」、「ほかに負けないひと押し」、「今までとは違うお役立ち」と自問しつつ試行錯誤することで、自社ならではのデザイン=商品が生まれるのだと思います。
Opmerkingen